インフレや金利の変動、経済成長の鈍化など、経済は常に変動しているため、資産運用にはリスクが伴うものです。
リスクを完全に排除することはできませんが、適切にコントロールすることは可能です。一般的に、「長期・積立・分散」投資がリスク分散に優れた手法とされています。
本記事では、この「長期・積立・分散」投資の仕組みと効果について詳しく解説します。
もくじ
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資産運用にはリスクが伴うもの
資産運用は、どの投資対象を選んでもリスクを伴うものです。
投資の世界での「リスク」とは、保有している資産価格のブレ幅の大きさのことを言います。そして多くの投資家は上昇のブレ幅(リスク)の嬉しさよりも、下落のブレ幅(リスク)への恐怖心の方が大きいのではないでしょうか。
例えば株式投資では、企業の業績はもちろん、世界情勢や為替事情といったマクロな視点によって株価が下落したり、上場廃止になったりするリスクがあります。また不動産投資では、家賃収入が減少するかもしれませんし、空室期間が長期化するかもしれません。不動産価格が自身の想定以上に下落することもあるでしょう。
どのような投資手法を選択しても一定のリスクを伴うため、投資対象ごとのリスクをしっかりと理解し、適切な対策を練ることが重要です。
リスクを軽視した投資を続けていると、大きな損失を被って大事な資産を失う恐れが高まります。
リスクをコントロールするための「長期・積立・分散」投資
リスクコントロールの方法はさまざまですが、一般的に「長期」「積立」「分散」の3つの手法を組み合わせることで、リスクを適切にコントロールできるといわれています。
どなたでも自分に見合った形で取り入れやすく、投資初心者にも有効な手段です。
長期・積立・分散投資の特徴と効果的な活用方法について、以下で詳しく説明します。
長期投資
長期投資とは、金融商品を10年、20年といった長期間にわたって保有し続ける投資手法です。長期投資では複利の効果で資産の増加を目指します。株式や投資信託の長期投資の場合、配当金や分配金を再投資することでより大きくする効果が複利にはありますが、この複利については、アインシュタインをして「複利は人類最大の発明だ」と言わしめています。
ただし、株式や投資信託などの金融商品の価格は、常に上昇し続けるわけではありません。それどころか、短期的に大きく下落することもあります。あの「リーマン・ショック」時も、特に個人のデイトレーダーや、リスクを大きくとっていた機関投資家が巨額の損失を被りました。
しかし、株価はその後に最安値から2年ほどでリーマン・ショック前の基準に戻っています。つまり、長期的な視点では、大幅な株価下落局面も一時的なものにすぎなかったわけです。
このように、長期投資の最大のメリットは、「時間を味方につけられる」ことです。積立投資や分散投資と組み合わせることで、そのメリットをさらに享受しやすくなります。株価の下落時もコツコツと継続して投資を行えば、その後の回復局面でプラスの収益を得られる可能性が高まります。
積立投資
積立投資は、定期的に金融商品を購入して積み立てる投資方法です。積立投資には、主に3つのメリットがあります。
少額からでも投資ができる
積立投資は少額の資金から始められます。証券会社によって異なりますが、投資信託の買付が100円から可能な証券会社もあります。
買うタイミングの分散ができる
積立投資は、価格の変動に関係なく定期的に一定額の投資を行うため、コツコツと投資を続けられます。
例えば、株式の購入時期を分散することによって、高値掴み(=高値で金融商品を購入してしまうこと。)をしてしまうといったリスクを軽減できることや定額で積立をした場合、株価の下落時は、株数を多く購入できることから、株価の上昇局面で資産が拡大する可能性が高まります。
自動的に投資を続けられる
積立投資は、「いつ」「どの商品を」「どれくらい買う」といった設定を済ませば、自動的に投資が続けられます。購入のタイミングを意識する必要がなく、無理なく長期的な運用が可能になります。
投資初心者でも継続的な資産形成を実践でき、株価の高値・安値に左右されずに投資ができるのもメリットです。
分散投資
分散投資とは、複数の異なる資産に投資を行う手法です。
具体的には、投資対象を株式、債券、不動産、金、暗号資産などに分散させることで、単一の資産に集中投資した場合に比べて価格変動リスク等を抑えることができます。
「卵を一つのカゴに盛るな」という格言が表しているように、分散投資は資産運用の基本であり、以下のようなメリットを得られます。
安定的なリターンを得られる
株式や債券などの資産は、それぞれ異なる要因で価格が変動します。特に、株式と債券は、異なる動きをする傾向のある金融商品として知られています。
複数の投資先に資産を分散することで、特定の資産が値下がりしても、他の資産が値上がりすれば、損失を補うことが可能と考えられます。
集中投資に比べると大きなリターンは期待できないかもしれませんが、リスクを抑えつつ、安定したリターンを得られる可能性が高くなります。
収益機会の拡大が見込める
市場環境の変化は目まぐるしく、時には想定していない一部の投資商品が高騰する局面もあります。そのため、分散投資を行い、複数の投資商品を対象に資産を分散しておくことで、自身の想定とは異なった相場でも収益を得られる可能性が高まります。
ただし、資産の組み合わせ方によってはリスクを分散させるという本来の目的に合わない場合もあります。例えば、株式と暗号資産に投資をしていても、両者が同時に下落局面に入れば、損失が拡大してしまいます。リスクを軽減するには、なるべく動きの異なる多様な投資対象に資産を分散することが効果的でしょう。
公的年金のポートフォリオも長期・分散・積立投資!
公的年金制度においても、長期・分散・積立投資の考え方が取り入れられています。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、世界中の株式や債券に分散投資を行うことで、リスクを抑えつつ、長期的な収益の確保を目指しています。
GPIFの基本ポートフォリオは、2020年4月1日より、国内債券25%、国内株式25%、外国債券25%、外国株式が25%を適用しています。
2024年第一四半期(4月〜6月)の収益率は+3.65%、第二四半期(7月〜9月)の収益率は-3.57%、運用開始時から2024年第二四半期までの累積収益額は+153兆6,431億円に達しています。
(出典: 2024年度の運用状況 - 年金積立金管理運用独立行政法人)
公的機関が扱う金額は大規模ですが、GPIFが実践する長期・積立・分散投資の手法は、投資資金が少ない個人投資家でも取り入れられます。株式や投資信託などの購入の際に参考にできるでしょう。
長期・積立・分散投資の具体的効果
多くの方が気になるのは、「実際に長期・積立・分散投資を実践することで、どのぐらい利益を得られるのか?」でしょう。
3つの投資方法を実践した結果について、過去のデータを元に解説します。まずは、長期投資の具体的な効果について見てみましょう。
長期投資の効果
(出所)QUICKを基に東海東京証券作成
上記は2005年6月から2024年8月までのNYダウ、日経平均の値動きを示しています。2005年6月を100と指数化すると、国内株式はこの19年間で指数が100から331まで伸び、NYダウも100から402まで増加しています。
この19年間で2008年のリーマンショック時に大幅な下落が発生しました。NYダウは指数で2008年9月から2009年2月にかけて35%も下落し、2008年5月の水準から44%下落しました。
しかし、この大きな下落は約2年で元の水準まで回復しました。結果的に、2008年5月から6年後には約32%のリターンを記録しています。
国内株式は東日本大震災などの影響もありますが、このように外国株式や国内株式も長期的な推移を見ると、2024年時点で大きく成長していることがわかります。
長期投資の具体的な効果
下記は、100万円を年2%の利回りで30年間運用した場合の結果を示しています。
単利の場合、資産は160万円にとどまりますが、複利を利用すると181万円にまで増えます。積立投資を続けることで、複利効果により20万円以上も資産が増加するのです。
さらに、以下の図もご覧ください。100万円を0.1%、2%、5%の利回りで30年間複利運用した場合の結果を示しています。
0.1%の利回りではほとんど増えないのに対し、5%の利回りで運用すると、30年後には約446万円にも達します。インデックス型の投資信託など、安定的な期待リターンが想定される金融商品に長期的に投資することで、期待リターン通りの値動きになった場合、資産の成長が加速することがグラフからも分かりますね。
積立投資の具体的な効果
積立投資の手法の1つにドルコスト平均法があります。
ドルコスト平均法とは、投資対象の価格変動に関係なく、一定額を定期的に購入し続ける投資手法です。価格が下がったときには多くの口数を、価格が高いときには少ない口数を購入することになり、結果的に平均取得単価を抑えられます。
例えば、1口の購入価格が1か月目に1万円、2か月目に8,000円、3か月目に6,000円の投資信託があるとしましょう。この投資信託を以下の2つのケースで比較します。
ケース1:毎月1万円分ずつ購入する場合(ドルコスト平均法)
ケース2:初月に3万円購入する場合
ケース1の場合、3か月間で支払う投資金額は3万円で、3.92口購入できます。平均取得単価は1口あたり7,653円です。
対してケース2の場合、初月に3万円を投資して3口購入することになります。平均取得単価は1口あたり1万円となります。
この比較からも分かるように、価格下落局面でドルコスト平均法を用いて購入し、平均取得単価が下がると、初月に一括購入する場合に比べ価格上昇時に大きなリターンを得やすくなります。どなたでも実践できる方法で、投資初心者でも始めやすいのも魅力です。
ただし、価格が長期間下落し続ける市場環境では、投資元本の損失リスクも考慮する必要があります。
分散投資の具体的な効果
下記は2000年〜2014年までの各資産クラスの年間収益率を示しています。
*「内外分散投資」=国内株式、外国株式(円)、国内債券、外国債券(円)への均等配分(平均)、「長期平均」=2000年から2014年までの歴年平均
*2014年は12月10日時点
*国内株式=TOPIX配当込み指数、外国株式=MSCI KOKUSAI(日本除く)株式指数、国内債券=ブルームバーグEFFAS日本国債指数、外国債券=バークレイズ世界債券(日本除く)指数、預金=日本キャッシュLIBOR指数、内外分散投資=国内株式、外国株式(円)、国内債券、外国債券(円)のリターンを均等配分(平均)したもの
(出所)ブルームバーグを基に東海東京証券作成
2000年から2014年の長期平均を比較すると、国内債券(1.9%)や国内株式(3.2%)よりも、外国株式(8.1%)や外国債券(8.4%)のリターンが高くなっています。国内外の債券と株式を組み合わせた内外分散投資のリターンは5.4%です。
長期平均だけを見れば、外国債券や外国株式を集中的に保有することで、大きなリターンを得ることができるように思えます。
しかし、例えば2008年はリーマン・ショックの影響で株式よりも債券のトータルリターンが高く、外国債券ですら−25.8%なのに対し、国内債券は3.6%のリターンです。特定の資産に偏らないことで大きな損失を避けられることが分かる一例でしょう。
盲信は危険?長期・積立・分散投資に潜むリスク
長期・積立・分散投資は、リスク軽減に有効な手法です。しかし、これらの方法を実践したからといって、必ずしも安心できるわけではありません。
次に挙げるような潜在的なリスクにも注意が必要です。
■投資市場の不安定性
- 市場の需給バランスや景気動向、金利の変動により、金融商品の価格が変動するリスク
- 外貨建て投資では、為替レートの変動によって収益が変動するリスク
■経済状況の影響
- 企業業績や市場評価の悪化による、投資対象の価値が下落するリスク
- インフレにより、実質的な投資収益が減少するリスク
■累積リスクの増加
- 長期間にわたって投資を続けることで、各リスクが拡大する可能性
このように、長期・積立・分散投資を行っていても、投資には常にリスクが伴います。投資を始める際には、これらの手法に過度な期待を抱かず、自分のリスク許容度をしっかりと理解し、適切なリスク管理を行うことが重要です。
長期・積立・分散投資はリスク軽減に役立つ手段ですが、投資のリスクを無くすことができるわけではないことも理解し、慎重に活用しましょう。
長期・積立・分散投資におすすめの手段
長期・積立・分散投資を実践するには、さまざまな金融商品やサービスを活用することが重要です。ここでは、初心者におすすめの手段として、新NISA、iDeCo、投資信託の特徴を紹介します。
新NISA/iDeCo/投資信託
新NISA
新NISA(少額投資非課税制度)は、2024年1月にスタートした制度で、年間最大360万円、生涯で1,800万円までの投資が非課税となります。新NISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つがあり、長期的な積立投資や分散投資を行うのに適しています。手続きも簡単で、初心者でも利用しやすいのが特徴です。
iDeCo
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、将来の年金を自分で積み立てる制度です。毎月の拠出額は所得控除の対象となり、運用益も非課税です。加入する年金の種類により拠出額は異なりますが、老後資金を効率的に準備するための有効な手段です。
投資信託
投資信託は、株式型や債券型など、商品によって様々な型がありますが、中でもバランス型は株式、債券、不動産などのさまざまな資産を組み合わせた金融商品で、株式や債券の投資に比べ少額から分散投資が可能です。運用は専門家が行うため、初心者にとっても安心して始められるのが魅力です。
時にはリバランスも行うこと!
リバランスとは、分散投資で変化した投資配分比率を元の目標に戻す作業です。投資を続けると、当初の目標配分から資産間のバランスがずれることがあります。
例えば、株式と債券を50:50で保有していても、株式が大きく値上がりすれば株式の比率が高くなり、債券の比率が低くなるといったことが起こります。
バランスが崩れると、当初の分散投資の効果が薄れてしまうため、定期的にリバランスを行い、適切な投資配分を維持することが重要です。
具体的には、値上がりした資産を一部売却し、値下がりした資産を買い増すことでバランスを調整します。
分散投資を実践するなら、リバランスは欠かせません。リバランスの時間的余裕がない場合、自動的にリバランスを行ってくれる機能を持つ投資信託を検討するのも一つの方法です。
まとめ
株式や投資信託などの資産運用にはリスクが伴いますが、長期・積立・分散投資を組み合わせることで、リスクを適切にコントロールすることが可能です。
- 長期投資:時間を味方につけることで、複利効果で効率的な資産形成が期待できます。
- 積立投資:定期的な購入により、高値掴みを避けて、価格変動の影響を和らげられます。
- 分散投資:複数の資産に投資することでリスクを抑え、安定したリターンが期待できます。
ただし、市場は常に変動しているため、油断せず、常に最新の情報を得ることが重要です。信頼できる情報源からの知識を取り入れ、投資の判断に生かしていきましょう。
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