NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)など資産形成を強力に後押しする制度が登場したことで、投資に興味を持ち始めた方は多いのではないでしょうか。ただでさえ、預貯金だけではお金が増えにくい超低金利時代です。「自助努力が必要」といわれるなか、不安に駆られて焦っている方もいるかもしれません。
ただし、「流行っているからなんとなく」「やっておいたほうがよさそうだから」といった理由で資産運用を始めてしまうのは危険です。きちんとした理由や目標があってこそ、適切な金融商品選びやブレない投資スタイルが確立できるようになります。
そこで本記事では、これから資産運用を始める方々に向けて、まず決めていただきたい目的とゴールについてお話します。
もくじ
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なぜ資産運用が注目されているのか
日本では長年、超低金利の期間が続き、銀行の預金金利は低い水準にとどまっていました。
2024年7月に日銀が0.25%への利上げを発表しましたが、日本の金利水準は他国に比べて低いままです。
預貯金で円を保有していても、利息がほとんどつかない状態ではインフレや物価高騰に対抗できず、次第に次のような懸念が高まりました。
- 資産価値が目減りしていくのでは……
- 将来が不透明で給与の上昇も期待しにくい……
- 人生100年時代で老後資金が不安……
資産運用の必要性を強く感じる方々が増えてきたところで誕生したのが、個人の資産形成を税制面から後押しするNISAやiDeCoなどです。NISA口座で生じた売却益や配当金は非課税であり、またiDeCoの掛け金は全額所得控除の対象かつ、利息・運用益が非課税です。
制度を活用して適切に資産運用を行えば、将来に備えた資産形成がよりしやすい時代となりました。
このような環境の変化が、これまで以上に多くの方々の資産運用への関心を高めたといえるでしょう。
「なんとなく」投資や資産運用を始めるのはキケン!
投資や資産運用への関心が高まるとともに、資産運用を「なんとなくやってみたい」と深く考えずに投資を始める方もいるかもしれません。
一歩を踏み出すこと自体は素晴らしいですが、資産運用を「なんとなく」始め、「なんとなく」続けていると、誤った投資判断で大切な資産を失ってしまう恐れがあります。
具体的に、次のような投資初心者の方は、一度立ち止まって考えることも必要でしょう。
投資目的や到達目標が明確でない
投資を始めた理由が曖昧だと、その都度の感情で投資判断を行ってしまい、利益を得る機会を逸してしまうこともあるでしょう。
機会損失を避けるために「何のために投資をするのか」「いつまでにどれだけの資産を築くのか」といった点を明確にし、具体的なゴールの設定や投資スタイルを確立することが重要です。
金融商品の選定理由が曖昧
SNSで影響力のある方や、メディアで取り上げられた株式銘柄等に安易に飛びつくのは要注意です。
その金融商品は、あなたが定めたゴールや投資スタイルに合致するとは限らないためです。また、他人頼りの商品選定にはあなたの意志がないため、他の金融商品に目移りしやすく、投資スタイルがぶれてしまいがちです。
相場全体の動きを見ようとしていない
株式や投資信託といった金融商品の株価や基準価額は、常にさまざまな要因によって変動しています。例えば、株価は企業の業績で変動しますが、金融政策や地政学リスクなど、金融市場を取り巻くマクロな環境の変化でも変動します。
つい目先の企業業績などの情報のみに左右されがちですが、このような様々な観点から相場全体の動きを把握しようとする努力や勉強が大切です。
資金管理ができていない
自分の許容範囲を超える金額での資産運用は避けるべきでしょう。想定外のマイナスが生じたとき、冷静さを保てず投資判断を誤ってしまう恐れが高まります。
また、例えば「投資に使う余裕資金」「急な病気や退職した場合の生活資金」など、資金管理をしておくことも重要です。焦らず、無理のない範囲の金額から始め、徐々に投資額を増やしていくのが賢明といえるでしょう。
確かな目的・ゴールに向かって資産運用を始める方法
スムーズに資産運用を始めるためにも、投資目的やゴール設定はしっかりと決めておきたいところです。具体的に行なうことは以下の通りです。
- お金の不安を洗い出す
- いつまでにいくら必要かを試算する
- 具体的な投資手段を決める
- リスク許容度を決める
- 資産運用について学び続ける
それぞれの内容について、順を追って解説します。
①お金の不安を洗い出す
「なぜ資産運用をするのか?」については、何らかのお金に関わる不安があるからでしょう。まずはそれを洗い出してみてください。- 老後資金が足りるか不安
- 子どもの学費を払ってあげられないかもしれない
- 住宅ローンを返済できるか心配
- 給料アップが期待できない
- 相続で大金を手にして持て余している
不安を洗い出したら、それを解消できるのが本当に資産運用なのか、よく考えてみましょう。場合によっては、別の手段で解消可能なケースもあります。例えば、子どもの学費は日本学生支援機構の奨学金を頼ったり、祖父母からの支援を受けたりすることで解消できるかもしれません。
「お金の不安を解消する手段の一つが資産運用である」という結論に至って初めて、次のステップに進みます。
②目標達成に向けた必要資金を試算する
洗い出したお金の不安を解消するためのお金が、いつまでに、いくら必要かを具体的に試算してみましょう。
毎月の生活費として必要となる金額は、ご家族の人数やお住まいになっている環境など、お一人お一人の置かれている状況によって変わりますが、例えば次のように考えることもできるでしょう。
・現在40歳。65歳以降の老後の生活費が夫婦で月30万円必要
→年金などで月20万円は賄えるとして、月10万円が不足
→65歳から30年間生きるすると3,600万円必要
→25年間で3,600万円を用意するには、生活費とは別に毎月約8万円を確保し、想定利回り3%の金融商品に毎月約8万円を回し積み立てる!
※上記はあくまでシミュレーションであり、実際の計画立案時には、ご自身の実際の支出や最新の金融商品の利回り実績などをご確認・反映する必要があります。上記金額(月額30万円)で生活費が充分であることや利回り率を保証するものではありません。
これは一つの例ですが、こうした試算を行うことで、より目的がはっきりし、自分に合った投資計画を立てることができます。
③リスク許容度を考える
リスク許容度とは、投資家が受け入れられる損失の限度のことを指します。リスク許容度はその人の貯蓄や収入、性格や投資の経験値などによって異なります。
例えば、100万円を投資に回し、20万円マイナスが出ても平気な方もいれば、5万円のマイナスで耐えられなくなる方もいるでしょう。
自分のリスク許容度を把握できていれば、金融商品を選ぶ際にも役立ち、抱えきれないほどの損失を被る失敗を防げます。
なお、同じ人でもリスク許容度は常に一定とは限りません。金銭的余裕や心理的な快適さは時間とともに変化するのが通常だからです。また、ライフステージの変化や貯蓄・収入の変動や、投資目的や運用期間などに合わせて、その資金のリスク許容度を柔軟に考えてみましょう。
④具体的な投資手段を決める
次に、自分の目的やゴール、リスク許容度に応じた最適な投資手段を選びます。資産運用にはさまざまな商品があり、それぞれにリスクとリターンが存在します。
資産の運用先となる主な資産の特徴や想定されるリスクと期待リターンは以下の通りです(想定されるリスクや期待リターンは、一般的な傾向をもとに試算したものです。実際の結果は市場環境などによって変動する可能性があります)。
金融商品 | 主な特徴 | 想定されるリスク | 期待リターン |
預貯金 | 元本保証で安全性が高い分、利率が低い | 実質的なリターンが低い | 年0.001%程度 |
株式 | 株価変動による売却益や配当収入が期待できるが、景気変動の影響を受けやすい | 株価下落による資産損失リスクがある | 年-20%~+10%程度 |
債券 | 定期的な利子収入が得られ、満期まで保有すれば元本回収可能 | 金利上昇時の価格下落リスクや発行体の信用リスクが伴う | 年-5%~+3%程度 |
投資信託 | 投資の分散化と少額投資によるリスク低減、専門家による運用で安定的な収益を目指せる。 | 市場の変動によるリスクやリスク分散の限界、ファンドマネージャーの判断リスク、資金の流動性リスクがある。 | 年-5%~+8 %程度 |
保険 | 保障と貯蓄の機能を兼ね備えており、契約期間が長期にわたる | 条件や制限により保険会社の支払拒否や保険料滞納による保険の有効性の喪失リスクがある。 | 年+1%~+3%程度 |
※以下の表は国内の金融商品を対象としています。海外の金融商品にはこれらに加え、為替変動リスクも想定されます。
もちろん、どれか一つだけを選ぶのではなく、組み合わせも可能です。堅実な資産運用を実現するために、最適な金融商品を選びましょう。
⑤資産運用について学び続ける
資産運用は一過性のものではありません。利益を出すためには、世界情勢や相場環境の変化等に合わせて柔軟に投資方針を見直し、資産運用を継続していく必要があります。
もちろん、「ほったらかし投資」などと呼ばれるやり方もあります。投資を一度始めたら、その後は基本的に頻繁な売買を行わず、長期的な視点で放置するスタイルのことです。日々の市場の動きに一喜一憂することなく、手間や時間をかけずに資産を運用できますが、「学び」までほったらかすのはよくありません。
書籍、メルマガ、SNS、動画メディア、金融セミナーなど、資産運用について学べる場はたくさんあります。自分が継続しやすいものを選んで、常にアンテナを張り続けることが大切です。
より学びを進めるために、複数の情報源から情報を収集するのもよいでしょう。多角的な視点を元に投資判断ができるようになれば、大きな失敗を回避する能力が身につきます。
まとめ
資産運用を始める際は、目的やゴールを明確にし、それに向けて計画的に行動することが何より重要です。初めの第一歩をおろそかにすると、株価下落時などの投資判断が必要なシーンで適切な判断と行動ができず、くやしい思いをしてしまう確率が高まります。
お金の不安の洗い出しや具体的な数値目標の設定、最適な投資手段の選定等を事前にしておけば、着実な資産運用を進められるでしょう。
ただし、金融市場は日々変化しています。信頼できる情報源から常に新しい情報を吸収し、状況に合わせて投資方針を調整する必要があることも念頭におきましょう。
ぜひ、この記事を参考に、順調な資産運用の第一歩を踏み出してみてください。