iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)は、老後資金を準備するための私的年金制度です。自身で掛金を拠出し、運用方法も自ら選択することで、その運用益を非課税で受け取ることができます。
iDeCoは、税制面での優遇もあり、投資初心者の方にもぜひ活用していただきたい制度です。本記事では、iDeCoの始め方やメリット・デメリット、利用時の注意点などを詳しく解説します。
iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)は、公的年金(国民年金や厚生年金)とは別に給付を受けられる私的年金制度の1つです。加入は任意で、申し込みから掛金の拠出・運用まで、すべて加入者自身が行います。
最大の特徴は、掛金の拠出時から運用資金の受取時まで非課税となる点です。これにより、公的年金と組み合わせて、より豊かなセカンドライフを支える手段として活用できます。
iDeCoに加入するには国民年金への加入が条件で、加入している国民年金の種類に応じてiDeCoに拠出できる掛金の上限が異なります。また、掛金は原則として60歳まで引き出せません。60歳以降に給付金を受け取る際には、受け取り方を選択できます。
iDeCoは、NISAと同様に運用益が非課税となる制度です。老後資金をしっかり準備したい方にとって、資産形成の選択肢の1つとなる制度です。
iDeCoには、拠出時、運用時、給付時の3つのタイミングで税制上の優遇措置があります。税制メリットを活用することで、効果的な節税が可能となります。
※上記の節税効果は2025年1月時点のものであり、今後制度内容が変更される可能性があります。
1つずつ順を追って解説します。
iDeCoに拠出する掛金は、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となり、所得税と住民税の負担を軽減できます。この控除は年末調整や確定申告を通じて受けられ、掛金が課税所得から差し引かれることで、税金が還付される仕組みです。
例えば、年収500万円の方が毎月2万3,000円の掛金を拠出した場合、所得税控除の対象となる年間の掛金総額は27万6,000円です。所得税率が10%、住民税率が10%の場合、合計20%の税率が適用されるため、年間で5万5,200円の税金が軽減されることになります(※)。
iDeCoの積立期間中は継続して控除が適用されるため、長期間運用すればするほど節税効果が積み重なります。
※節税額は所得水準や扶養家族の状況により異なります。実際の金額は各自の条件に基づいて計算する必要があります。
iDeCoでは、運用中の資産から得られる運用益がすべて非課税となります。通常、株式等の売却益や定期預金等の利息には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoでは運用期間中の利益は非課税となります。
iDeCoで積み立てた資金を受け取る際には、「退職所得控除」や「公的年金等控除」が適用されます。受け取り方法として、一時金として一括で受け取る場合は「退職所得控除」が、年金形式で受け取る場合には「公的年金等控除」が適用されます。
金融機関によっては一部を一括で、残りを年金形式で受け取る「併用受け取り」も可能です。この方法では、それぞれの受け取り方に応じて退職所得控除と公的年金等控除が適用され、退職所得控除の上限を超える部分を年金として受け取ると節税効果が得られます。
さらに、加入者が障害状態になった場合には、積み立てた資金を障害給付金として非課税で受け取ることもできます。加入者が死亡した場合、死亡一時金として遺族に支払われる仕組みもあります。
iDeCoは、投資に不安がある初心者にも適した制度です。掛金は月々5,000円からと少額でスタートできるため、一度に大きな金額を投資することに抵抗がある方でも安心して始められます。口座の廃止は原則としてできませんが、資金に余裕がない場合は一時的に掛金の拠出を停止することが可能です。
iDeCoでは、口座開設先の金融機関が提供する金融商品の中から投資対象商品を選択します。金融機関によってさまざまなタイプの金融商品がそろっており、購入手数料がかからない「ノーロード」の投資信託も多くあります。
また、通常投資信託を保有する際は、運用期間中の運用・管理手数料として信託報酬が発生しますが、iDeCoでは信託報酬が安い商品が選ばれている傾向があります。
iDeCoは、転職や離職があっても、個人の年金として継続して運用できます。例えば、自営業者が企業型確定拠出年金を導入している企業に転職した場合、iDeCoで積み立てた資産を企業型確定拠出年金に移換することができます。
また、企業型確定拠出年金の加入者が離職する際には、企業型確定拠出年金で積み立てた資産をiDeCoに移換することも可能です。このように、iDeCoは持ち運びが可能で、働き方に応じて柔軟に対応できます。
iDeCoは多くのメリットがある一方、デメリットや注意すべき点があります。初心者の方は、制度の仕組みや注意点を十分に理解してから始めましょう。
iDeCoは、積み立て途中で解約して資金を引き出すことは原則としてできません。損益にかかわらず、積み立てを中止した場合でも、給付金の受け取りは60歳以降となります。
例えば、予期せぬ病気や事故で急に多額の資金が必要になった場合、iDeCoの資金を利用することはできません。急な支出に備えるためには、iDeCoとは別に、生活防衛資金などまとまった資金を準備しておくほうがよいでしょう。
また、やむを得ない事情、例えば加入者の死亡や高度障害といった特別な場合を除き、iDeCoは中途解約ができません。ただし、掛金の支払いが難しくなった場合には、掛金の減額や一時的な支払い停止が可能です。
しかし、掛金の支払いを停止するとその期間中は新たな掛金がないため、iDeCoのメリットである所得控除を受けられなくなります。過去に積み立てた資産については税制優遇措置が継続されますが、口座管理費用は引き続き発生します。
iDeCoの運用には投資リスクが伴います。定期預金のように元本が保証される商品も選べますが、多くの場合、投資信託などのリスクがある金融商品を選ぶことになります。
したがって、iDeCoで資産を増やしていくためには、投資に関する知識を深め、自分のリスク許容度に合った商品を選択することも重要です。市場環境の変動によっては、期待通りの成果が得られないこともあるため、市場の動向を注視し、必要に応じて運用の見直しを行う必要があります。
iDeCoを利用する際には、様々な手数料が発生します。
代表的なものとして、iDeCoに加入する際や、企業型確定拠出年金からiDeCoに移換する際にかかる加入・移換時手数料があります。その他にも、運用期間中にかかる掛金納付手数料・事務委託手数料・口座管理手数料、60歳以降にiDeCoで運用していた資金を受け取る際にかかる給付手数料、掛金の還付が発生する際にかかる還付手数料等があります。
手数料金額は金融機関によって異なるため、比較することが大切です。
iDeCoの掛金上限は、国民年金の加入状況や勤め先によって変わります。タイプ別の拠出金の限度額は以下となります。
加入資格 |
具体例 |
拠出限度額の上限 |
第1号被保険者 |
自営業者や個人事業主、フリーランスなど |
月額6.8万円(年額81.6万円) ※iDeCoの掛金のほかに、国民年金基金や国民年金付加保険料を合わせた上限金額です。 |
第2号被保険者 |
企業型確定拠出年金(DC)に加入していない方 |
月額2.3万円(年額27.6万円) |
企業型確定拠出年金(DC)と確定給付企業年金(DB)などの他制度に加入している方 |
・企業型DCのみの場合:月額2万円(年額24万円) ・企業型DBなどにも加入している場合:月額2万円(年額24万円) ※上記は事業主掛金額によって異なる。 |
|
公務員 |
月額2万円(年額24万円) |
|
第3号被保険者 |
専業主婦(夫)など |
月額2.3万円(年額27.6万円) 収入がほとんどなく所得税や住民税を支払っていない場合、節税効果はありませんが、資産運用時や給付時における税制優遇措置を受けることはできます。 |
任意加入被保険者 |
60歳までに老齢基礎年金の受給資格を満たしていない場合などで60歳以降も国民年金に加入している方 |
月額6.8万円(年額81.6万円) |
iDeCoは働き方によって拠出限度額などが大きく異なります。自分の加入資格や勤め先の状況を確認してから利用するようにしましょう。
iDeCoに加入するには以下の5つの手順が必要です。
iDeCoの受け取り方法には、「年金」「一時金」「一時金と年金の併用」の3つの選択肢があります。自身のライフプランや貯蓄額、老後の生活設計に合わせて最適な方法を選ぶことが大切です。
年金形式では、60歳から75歳の間で受給開始時期を自由に設定でき、毎月一定額が支給されます。この形式は「雑所得」として総合課税の対象になりますが、「公的年金等控除」が適用されます。控除額は年齢やその他の公的年金の合計所得額に応じて異なります。
公的年金とiDeCoの年金の受給タイミングを調整することで、税負担を抑えることも可能となります。
60歳から75歳の間に一括で受け取ることも可能です。一時金は「退職所得」として扱われ、「退職所得控除」が適用されます。
退職所得控除の計算は以下の通りです。
例えば、iDeCoに10年間加入して500万円を受け取る場合、他の退職金がないと仮定すると、退職所得控除額は400万円(40万円 × 10年)となります。
退職金として受け取った金額は、退職所得控除額を差し引いた後の金額の1/2が、「退職所得」として所得税の課税対象となります。
つまり、次の計算により課税対象は50万円となります。
退職所得控除を活用することで、一時金の受け取りに対する税負担を軽減できます。
金融機関によっては、60歳以降に一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能です。この方法では、iDeCoの一部資産を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取るという選択ができます。
例えば、25歳から企業に勤めてiDeCoに加入した方が、35年後の60歳時点で退職金とiDeCoの一部資産を受け取りたいとしましょう。退職所得控除の計算式を再掲します。
以上から、35年間の勤続に対する控除額は1,850万円(800万円 + 70万円 × 15年)になります。
仮に退職金が1,500万円、iDeCoの給付金が650万円の場合、全額を60歳で受け取ると合計2,150万円になります。退職所得控除額1,850万円を差し引いた300万円の1/2、つまり150万円が課税対象となります。
しかし、60歳で退職所得控除の範囲内で350万円を一時金として受け取り、残りの300万円を60歳から64歳までの5年間、毎年60万円ずつ年金形式で受け取るとします。この60万円には公的年金等控除が適用されます。
このように、一時金と年金の組み合わせによって節税効果を高めることができます。
iDeCoは長期的な資産形成に役立つ制度ですが、資産運用方法の中の1つに過ぎず、他の運用方法がより適している場合もあります。
そのため、iDeCoの利用を検討する際には、自分の財務状況や将来の目標を確認し、他の運用方法と比較してみることが大切です。また、長期的に安定した資産運用を実現するには、投資の知識を深め、自分に合った運用方法を見つけることが欠かせません。
東京東海証券では、投資に興味のある方へ向けて、さまざまな金融商品や投資情報をブログやメルマガで提供しています。特にメルマガでは、最新の情報をいち早くお届けしていますので、ぜひご活用ください。